世界を横に、アートで繋いでいく。OFFICE 339 鳥本健太

 1980年、北海道生まれ。大学を中退して、イギリスのマンチェスターにてホテルマンとして働いた後、日本のIT会社で2年間勤務。その後、中国への興味から大連のIT会社で働く。上海に訪れた時にアートの可能性に触れ、すぐに上海のM50内にある版画工房で働く。その後にOffice339を起業し、今に至る。

 世界を舞台にアートを発信すると同時に、クリエイティブ雑誌SHIFTの中国版の編集者、日本と中国の架け橋となるために、中国ローカルの声をサイト上に生で届ける、Billion Beatsも運営。世界中の様々な場所でプロジェクトを実施すると同時に、多様な事業を手がけている。


01 会社が遠くなってしまったから、起業です。

 中国の大連にあるITの会社で働いていた時、上海に訪れる機会があり、そこでアートの可能性に触れて衝撃を受けたんです。元々アートは好きだったのですが、上海には本当にその可能性という衝撃だけできました。

 M50という現代アートのギャラリーが集まる場所が上海にはあるのですが、初めはそこの版画工房で働いていました。元々、「起業したい」という強い意思があったわけではないのですが、働いていた版画工房の会社が市内からかなり遠い場所に移転することになり、『これでは遠くて通えなくなるな』、ということで独立。成り行きというか、その時タイミングが合ったからという感じです。

 僕はプロジェクトによっては役割上「キュレーター」という肩書きになることがあるのですが、自分自身キュレーターというよりは、自分でコトを起こすことをしたかったんです。キュレーターとは、美術はもちろんのこと歴史、文化、政治、経済、など様々な観点からの深い見識を持ちあわせて、展覧会などを組み立てる専門職。彼らを映画監督とすると、僕はどちらかというと映画プロデューサーのような存在になりたい、コトを起こしていきたいんです。

 


02 アートマネージメントOffice339

 ぼくらの事業は、便宜上アートマネージメントと呼んでいます。展覧会の企画運営、文化交流のイベント、アーティストと一緒にプロダクションの制作や、企業のブランディングやプロモーションなど非常に多岐に渡り、アートに関わるものはかなり幅広く手がけます。プロジェクトベースでは、インド、べトナム、インドネシア、中東にも行っています。

 よく間違われるのですが、アートとデザインって実は全くの別物なんです。アートとはアーティストが自分の表現を外に発信していくこと。プロダクト・アウトです。デザインとはクライアントの要求に応じて、こちらの発信方法を変えていくことなんです。僕らが手がけているのはアートのマネージメントです。如何にアーティストの表現をうまく発信し、伝えられるか。

 去年Office339の集大成的なShanghai Galley SelectionとSHELL ECONOMICSという2つのイベントを行いました。これは、現時点、上海で一番高いビル上海環球金融中心(SWFC)の3周年記念の文化イベントとして企画させていただいたもので、文化的要素が少ない上海の新興地でアートを発信する試みなので、今までにない新しいモノにしたかったんです。

 なので、上海の大半のアート関係者が、否が応にも関わらなければならない、大げさに言うと上海のアートシーンをジャックするようなプロジェクトを仕掛けました。

 

 1つがShanghai Gallery Selection。上海の17のトップギャラリーを集めて、あえてテーマを決めず、それぞれのギャラリーの旬のアートを展示してもらうことによって、上海の現代アートの「今」を表現するミュージアムクラスの水準の展覧会となりました。

 

 またもう1つのSHELL ECONOMICSは、約20人の若手のアーティストによるアートフェアです。通常アートフェアとは、来場者が気に入ったアート作品をお金で買うことが出来るイベントですが、SHELL ECONOMICSでは「お金を使ってはいけない」というルールを設定し、参加者が「アート作品」とお金ではない「何か」を交換できるという実験的なアートフェアです。もちろん、アーティストがその「何か」を気に入らないといけないのですが、最終的に「愛のこもった詩」とか「12本のバラ」など、通常では考えられないような面白い交換が沢山成立しました。「金融中心」という名前のついたビルの中であえて反金融資本主義的なメッセージを発し、かつモノゴトの価値の本質を参加者の方々に考えてもらい、そのプロセスを楽しむようなイベントとなったことで、中国語版TwitterであるWeiboでは、その時期上海のアート関係者のタイムラインはほとんどこのトピックで埋め尽くされたほど話題になりました。


03 アジアをリードできる人材を、リキッドに繋げたい。

 ぼくは、『アートの価値をどうやって社会に還元できるか。』ここに自分のコアを置いています。大枠で、アジアにフォーカスしていて、アジアの中で多国間にネットワークを張ってリードできる人を輩出していきたいと思っています。各々が自立して、国と国の境を超えて、文化の側面からリーダーシップをとれる人材。そういう人たちが様々な場所にある文化的な価値を流動化させて、それぞれの地域で新たな価値を発見したり、再定義したり、そこに存在する問題をあぶりだしたり、そういう事ができる人材を我々の仕事を通してどんどん輩出していきたい。それはアーティストだったり、キュレーターだったり、どんな立場であってもいいんです。

 現代アートを中心に手がけていますが、アートは一つの切り口であって、社会に還元するプロセスを、アートを通して人と人が繋がることで実現していきたいと思ってます。だからそのきっかけとなるようなプロジェクトを世界を舞台に、もっと積極的に企画していきたいと思っています。

 

 


話を終えて。

年数は、覚悟の違いから来る信頼。

 鳥本さん曰く、

 「実は僕、30歳まで世界一周をしたいという夢があったんです。でも、上海に住んでビジネスを手掛けて気がついたのは、同じ場所にいないとできないこと、地に足をつけて活動しないとできないことが、非常に多いと分かったこと。色んな方が、短期間だけ上海にきて帰って行くのを見ていて、一年でフワフワと、では話にならなかった。年数は覚悟の違いとなり、それは信頼となる。地に足につけて、ここをベースにしてアート発信を上海でやっている日本人がいないので、色々なプロジェクトを手がけさせて頂いています。長くいればいる程、やれることが増えてきたという実感を年々肌で感じています。」

 続けているからこその信頼、そこから繋がる新しい未来。この旅の中でも、人、モノ、金がさらに信頼という名の評価で繋がっていくのが非常に大きく感じる。


日本的な『ソーシャルアート』の世界進出。

 また鳥本さんは最後に、『日本にあるソーシャルな側面を持つアートは、世界でも稀であり価値がある』と仰っていた。

 日本では地域復興としてアートに取り組むプロジェクトも多くて、例えば直島をはじめとした瀬戸内海のアートイベントはまさしく地域復興×アートだ。こういった日本で培われた社会性のあるアートが、これから中国において大きな需要になっていく可能性がある。クリエイティブ産業において、これから日本が世界でどのように振る舞っていくか、今後の大きな鍵である気がしてならない。逆に言えば、クリエイティブ産業では、日本が世界をとれるチャンスがあるということだ。

 

 

成瀬勇輝

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