サグラダファミリアの主任彫刻家 外尾悦郎氏

 


外尾悦郎氏 

 1953年、福岡県出身の彫刻家。現在は、バルセロナのサグラダファミリアにて主任彫刻家を務めている。石工になるべく25歳で日本を飛び出し、バルセロナに移って35年が経つ。2000年に完成したサクラダファミリアの生誕の門は、世界遺産に登録されている。ガウディの意志を継ぐ東洋人は、スペイン人からも尊敬のまなざしを受けている。


 

同じ方向を見ること。

 僕が石工をはじめたのは、大学の時の石の先生が格好良かったから。彼は元々特攻隊員で、戦争で死ぬはずだった人間。変わらぬものを求めて石にたどり着いたんでしょう。その生き様を横で見ていて、僕の石への興味がはじまったんです。

 サグラダファミリアに来たのも、石を掘りたかったから。でもここで石を彫るなら、まずガウディを知らなければならない。そこで僕は勉強をはじめました。こっちの人は誰が創っても同じだと考えているので、過去をあまり勉強しようとしない。でも僕は真面目だったので、ひたすらガウディについて勉強しました。

 少しでも近づきたくて勉強をはじめたのですが、ガウディには一向に近づけなかった。僕とガウディの間には小さくても深い溝があったんです。彼は僕など見ていなかった。だから僕は彼を見ることをやめた。彼が見ている方向(未来)を見ることにしたのです。同じ方向を見る。そうしたら僕が彼の中に入り、彼が僕の中に入ってきた。ガウディが見ている未来をみて、考える。同じ方向を見ることで、自然と彼が何を作りたいかが分かるようになったんです。一年ごとに更新されていく契約で、僕が35年間勝ち残れている理由はそこにあるのかも知れません。


情熱の伝播。

 実はガウディがサグラダファミリアを建築する時、彼は図面を使っていなかった。そもそも石を彫る人達は図面など読めなかったんですよ。でも当時、図面が読めないと石堀りになれないという慣習があった。それをガウディは取っ払ったのです。そのかわり、彼は一人一人に合わせて説明をした。彼は情熱を伝えていたのです。情熱を伝えるとは、愛を芽生えさせるということ。そして、心に焔を灯していくということ。これこそがガウディの最初の図面なのです。日本の教育もそうなんですが、一人一人の心の中に情熱の芽を植えて行くことが、これからの未来を考える大きな一歩なのだと思います。

 ガウディは本当に仲間(職人)を第一に考えていました。だから彼はまず、サグラダファミリアの横に学校を建てたんです。これは、職人たちに希望を持ってもらうため。職人の報酬は希望だったのです。自分の子供たちに希望があるから、職人は一生懸命働く。建築中に一度も事故を起こさないという奇跡を起こせたのも、こういった理由からなんですよ。

 今世界は、システムという名の下に人々が埋もれてしまっている。システムは無機質なので、ノウハウしか伝わらないんです。いつの時代も人から人に完璧にノウハウを伝えるという事はできない。次に伝えられた時には元の80%になっている。そして次もその80%。という事はオリジナルの64%なのですよ。こうやってどんどん小さくなる。だからノウハウを伝えるのではなく、情熱を伝えていくことが大事なのです。

 


人間は時間と空間を移動する。

 僕は、神が時間を創り、悪魔が時計を作ったと思っています。人間には空間と時間が与えられているけれど、空間は飛行機などで移動できると考えていても、時間を移動するという感覚はあまりないのではないでしょうか。時は、過ぎて行くものではなく過ごすものなんです。この一秒、一時間という区切りは我々が作ったもので、たいした意味など無いのです。だから65歳のおじいさんだろうと、22歳の青年だろうと、人生の移動距離が大事なんですよ。年を取っていてもまるで移動していない人もいれば、若くても長い人生の距離を移動している人もいる。時を移動する感覚を身につけるのはいかがでしょう。


次の世代、若者へ。

 僕たちは30世紀を考えなくてはいけない。21世紀とは30世紀へのはじまりです。だからこそ、個人主義ではなく人類の権利を考えていく必要があると思っています。すべてを自分の責任に落とし込んでいけること。時間を移動すると言いましたが、僕たちは無限の時間と空間の中にいる。そして僕たちは時間を移動しているのです。「時間は自分の周りを過ぎていく」と受け身にならずに、自分たちで移動していくのです。例えば、2022年をこうしたい、という到着地点を決めてから、それに向かってまるで石を彫るようにがむしゃらに進んでいくのです。だから時間を移動している感覚を持って、自分の人生と未来を掘り下げていきましょう。




 

:話を終えて。

時間を移動することで境を超える。

 ガウディと同じ方向を見ながらサグラダファミリア建築に携わることによって、過去と未来を繋いでる。そしてサクラダファミリアの石の中に情熱を灯すことによって未来を生きている。外尾さんは時間を移動しているのだ。

「時間を移動する」のであれば、持ち物は少ない方がいい。持ち物とは、心の枷のことだ。本当に大事なものが何か分かっているということは、大事ではないその他のものを捨てられるということ。周りのくだらない雑音を取り払えるということ。そうすることで、自分が見るべき方向に向かって動いていける。

『オリジナルは、オリジンに戻ること。』

今情報が溢れている中で、一旦情報を捨ててオリジンに戻ること。自分と向かい合って行くこと。それは原体験を自分で探しにいくことなのかもしれない。だから僕は団体でまるで護送ツアーの様な形で海外に出るよりも、一人旅を勧めている。自分と向き合うことのできる「旅」は、そのオリジンに戻る手助けをしてくれるはず。一度身の回りにあるモノから離れて、今の”境”を超え移動してみるのはいかがだろうか。

 

成瀬

文章校正:増田祐加

 

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